• BIO • EN / JA
  • CONCERTS & PROJECTS
  • COLLABORATION
  • MEMORANDUM
  • GALLERY
  • VIMEO
  • L‘ARCADIA DI DIONISO

Suguru ito

​Suisse based pianist • fortepianist


​
​MEMORANDUM • CONTENTS ~ Fanny Mendelssohn-Hensel|タンポポあるいはポポンタ|Une occupation inutile|伊藤悠美 YUMI ITO Vocals (Vimeo)|みだれ箱|メトロノーム奇談の時代|パウ・カザルス国際音楽祭 (Vimeo)|夜話 Online Conversations|常不在|Character first, ability second |D or E, that is the Question|酒神礼讃|Mozart & Don Cacarella|J. S. Bach & Beer|Clavicembalo o Piano-Forte|The anniversary of Caroline Esterhazy‘s death|ピアノ奏法の断片|Deuxième ballade Op. 38, Sonate Op. 65 等にまつわる事情|Beethoven ad libitum|鼠小僧次郎吉と跡隠しの雪|覚書 2|覚書 1

タンポポあるいはポポンタ

2/6/2021

 
Picture
Dandelion seedhead at sunset|Photo ©︎ FAE

ふとバルコニーを見ると、タンポポがタイルの隙間から生えている。そこには微量の土しかないというのに、知らぬ間に蕾をつけた茎を13本伸ばし、5月半ばになると順々に花を咲かせた。キク科に属するから、なかなか優雅な花弁である。3 ~4日で花の盛りが過ぎるころ、そのひょろ長い花茎は横たわるようにぐったりしてしまう。数日後には準備の整った綿毛がしぼんだ花弁を内から押し開けるようにふんわり円く膨らんでいく。そのさま、あやしい精の息づくが如し。逢魔の刻には、落陽を浴びて光る冠毛にしばし見惚れる。ふたたび茎はぴんと伸び、前よりいっそう背が高くなったかと瞠目していたら、夜半に吹き乱れた春の嵐に乗ってみんなどこかへ舞っていってしまった。翌朝、まだわずかに残っていた綿毛を、種子の部分を傷つけぬようピンセットで大事に取って、脇に置いてある鉢に埋めた。

浮遊する妖怪ケサランパサランも時折見かける晩春の候、タンポポの花から綿毛にいたるプロセスこそ神妙絶大にして、ここ数週間、決してつれづれな日常というわけでもないのに、この気丈な多年草の “生きざま" に我を忘れて過ごしてしまった。

和名の蒲公英 (ほこうえい) は開花前の状態で乾燥させた漢方薬に由来するらしい。根っこを焙煎してつくるカフェインレスコーヒーも興味深いし、ギザギザの葉はサラダに入れもする。日本では花を天ぷらにして食べていた時代もあったとか。それなのに菜園などでは厄介者扱いされる常。雑草というのは人間界が勝手に決めつけた話であって、タンポポにとってこんな遺憾なことはない。

自ら場所を選ばす、風に導かれるままに永住の地へたどり着き、そこで天命を生き抜く姿は孤高にして、古今東西の人生論の束に勝るとも劣らず。

つらつらにおもんみるなり たんぽぽのやうな人にぞなりたかりけり
よみ人知らず

ー

もう40年近くもむかしのことになるが、一度だけお目にかかったヴァイオリン製作者の陳 昌鉉さんから伺った不思議な一言はずっと耳に焼きついている。「夜、暗い林の中を歩くとね、ミミズの鳴き声が聞こえるんだよ。あの声を聞かないとヴァイオリンは作れない」

どうしてタンポポから陳親方のことを思い出したのかわからないが、当時16歳の青二才に真摯にミミズのお話をしてくださった名人にあらためて拝礼申し上げます。


Comments are closed.
    ➖

    ​
    ©︎ FAE 2023
Powered by Create your own unique website with customizable templates.
  • BIO • EN / JA
  • CONCERTS & PROJECTS
  • COLLABORATION
  • MEMORANDUM
  • GALLERY
  • VIMEO
  • L‘ARCADIA DI DIONISO